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丹沢・大倉尾根から塔ノ岳~鍋割山

新年初登山は丹沢へ。この半年ほどで箱根の山はだいたい歩いたので、今年はようやく丹沢に足を踏み入れようと思います。雪の冬山は装備もないし、ちょっと怖いけど、どんなもんかサワリだけでも味わいたいなと。最近よく読んでる山の雑誌やガストン・レビュファの映画(アルプスの岩登りだけど)など眺めてると、ちょっと興味も沸いてくるのです。前日は東京でも初雪。丹沢の表玄関とも言える塔ノ岳でも2月の厳冬期にはマイナス15度になるそうだし、今どんな状況だか分からないけど、でも天気は良さそうなので、行けるとこまで行ってダメだったらひき返してこよう、と少々緊張して出かけました。

小田急渋沢駅から乗り込んだバスが坂道を登り始めると、粉雪が舞い始めた。空も暗く、雲が覆っている。大倉の登山口で降ろされて、どうしようかちょっと迷ったけど、同乗の数名のみなさんは迷わず山へ向かわれる。しかもみんな思いのほか軽装だ。気温もそれほど寒くなく、ダウンの上着をしまって、スパッツの準備だけしておく。ネックウォーマーは首筋の防風になるし、暑かったらすぐ脱げるので便利だ。びくびくしながらの山歩きだから一応入山者カードを書いておいた。準備運動などしてゆっくりしてから、バスの同乗者の中では一番遅くにスタート。9時ちょっと前。
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ほどなくして塔ノ岳へのメインルート、大倉尾根の登山口だ。通称「バカ尾根」と呼ばれる、標準コースタイム3時間の登り一辺倒の尾根道だ。バカみたいに長いから「バカ尾根」らしい。でもこのように舗装道路のアプローチが短いのはうれしい。
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雪国の人には申し訳ないが、雪のほとんど降らないところに住む私などには、顔に雪の当たるようなことでも嬉しいのである。今年初めての雪。きれいに敷き詰められた石畳を歩く。
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あるいは枯葉にふりかけられた上をもったいなく踏みしめる。
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30分も歩くと陽が差してきた。まだチラリと雪が舞っている。このようなやや霞んだ朝もやの踏み跡を歩くのはなんて気持ちよいのだろう。今日はゆっくり歩こうと思っていたのに、ついペースが上がり、早くも汗ばんできた。上着を一枚脱ぐ。
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気持ちの良い並木道。右から上がってきた道と合流し踏み跡を追う。途中3張りほどのテントでキャンプしている人たちに挨拶。
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粉砂糖をかけたチョコレートケーキの上の木道を行く。
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2列に並んだ木道が続いてゆく。この2列の寄り添い方が好き。近つ離れつ、上がったり下がったり。暦年の踏み跡で深くえぐられた登山道に、浮き橋のような木道が架けられているだけでも素敵だが、2本寄り添っているのがよい。道好きとしてはたまらない光景だ。

ここをモーレツな勢いで下ってくる40代後半ぐらいと思われるトレイルランナーあり。短パンに両手にトレッキング・ポールで走り下りていった。思わず「こんちは!」と挨拶の声をかけると、小声で返してくれたが、ホントはそんな余裕もないくらい集中しているのだろう。細かいピッチで常に着地点を探しているのだ。この時間に下ってくるとは、いったい彼はいつ頃登り始めたのだろうか!
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敷き詰められた石畳に雪が目地を埋める。古い街道の石畳と同じように、この道を造った人たちの思いが伝わってくるようであたたかい。
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東隣の尾根に陽が差して明るくなってきた。右に三ノ塔からの表尾根。さらに奥のほうには頭を白くした新大日、木ノ又大日などが見え、どのくらい雪があるのか、気も引き締まる。
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左には鍋割山の方角、雲がかかって頂上付近が見えないけど、小丸尾根かな?尾根線が見える。天気が良くなってきて、俄然元気も出てきた。急な階段の上りでは、中高年の登山者のみなさんのペースが落ち、休み休み足を進めている横を抜かせてもらう。みな言葉少なである。声をかけても声色が暗い。でも中にお一人、70前後と思しき単独行のおじさんが「後ろから元気な足音が聞こえてきたねぇ!」と気持ちよく見送ってくれたのが嬉しかった。たまにそういう人に会う。ゆっくりしたペースで楽しんでらっしゃるおじさん方に、元気に駆け抜けて行くのを喜んでもらえたら、嬉しいな。

今日は単独で歩いている方が多く、挨拶してもあまり元気がない。特に女性の単独の方は。きっと一人の時間を楽しんでらっしゃるのだから邪魔すまい。いつも山で元気なのは、おばちゃんのグループだ。ずっと喋りながら歩いてるもんね。
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えぐられた急登に架けられた木の階段。ふくらんだり沈んだり。
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線路のようなきれいなカーブ。見事。
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今日のテーマは、ふくらはぎに負担をかけないように細かい歩幅で登ることなので、このような細かい階段はちょうどよい。空に向かって、姿勢を崩さないようにして一定のペースで登ってゆく。それでもさすがに階段の途中で立ち止まるようなことも。汗もかなりかき始め、ズボンの下のタイツの濡れが気になる。標準タイム2時間半の戸沢分岐まで、1時間ちょっとで来てしまった。
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天空にそびえる城壁のような見事な木組み。素晴らしい気分になる。

非常に多くの登山者が歩くこの大倉尾根は、幾万もの踏み跡で登山道が削られ、それを石畳や木道や木の階段や、このように補修保全して歩きやすくしてくれているのだ。木の階段は歩きにくいという人も多いと思う。階段を避けて脇を歩けば、両脇が削られてそこから階段の土が流れて階段を留めていた丸太はハードルのように浮いてしまう。そのような登山道がほとんどのように思える。自然を求めて山に来たのに人工の階段を歩きたくないという方もいるかもしれない。しかし立ち枯れた林の道や、土が流れて木の根が浮いてしまった斜面などを歩く時の寂しい気持ちに比べたら、やはり宮本常一翁の言うように、人の手の入った自然ほど美しい。いや、「やさしい」だったかな。我々は先人のつけた踏み跡を追って歩く。これもまた人の手の入れられた自然なり。いや、人の足の踏んだ自然ほどあたたかい、と言わせてもらおう。

先日歩いた箱根のあるハイキングコースは、元の登山道がえぐられて谷のようになり、(おそらくそこを雨水がさらに削ったのだろう)、その谷の岸に沿うように新たな踏み跡がついていた。これもまた自然の成りゆきと言えるのかもしれない。多くの人が訪れる箱根のハイキングコースは、自動車道の近くに投げ捨てられたゴミといい、立ち枯れた木々も多く、寂しい思いをすることも少なくなかった。それに比べて人のぬくもりの感じられるこのような道は、ほんとに素晴らしい。
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ここまであまり振り返らずに来たが、花立小屋の手前のこの階段で振り返ってビックリ。海が画面中央ほど、こんなに上まで来ているのだ。下からもくもくと雲が湧いてくる合い間に、相模湾が輝いていた。この小屋の立地はなんて素晴らしいのだろう。
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階段が終わって頂上がはっきりしてきた。左の小屋が見えるのが目指す塔ノ岳。
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薄く降り積もった白い道。
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左に表尾根との間の谷から雲が湧いて、幽壮な深山のよう。
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いよいよ山頂!薄い霧氷の白い芽が吹いた木の枝が青い空に映える。
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大倉から2時間弱で山頂到着。さすがに空気は冷たく、汗が一気に冷える。木のテーブルに腰掛けるとお尻もびっしょりだ。ダウンを着て、ポットの紅茶でおにぎりを流し込むが、いい加減寒くなってきたし、富士山にかかった雲が取れそうに取れないので、山小屋に入れてもらうことにした。ストーブに当たらせてもらって温かい甘酒をいただいた。3,40分待ってようやく富士山が見えてきたところで写真を撮った。右には南アルプスがはっきり見える。

尊仏山荘のおやじさんの話では、東京と同じく丹沢も昨日の夜からが初雪だったそうだ。2月23日(ちょうど語呂がフジサンの日だ)には富士山の頂上に日が沈むので、混雑すると言ってた。平日にしか山歩きしない私にとって山小屋に入れてもらうのは滅多にない機会でうれしかった。週末しか開いていないとガイドブックなどに書いてある鍋割山の鍋割山荘も、最近は平日も営業しているそうで、「名物の鍋焼きうどんでも食べていってやってくれよ」と言われ、自営業の私としてはヒマな平日にお客に寄ってもらいたい気持ちが(痛いほど)分かるので、すっかりその気になって辞した。コーヒーも飲みたかったな。
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外に出ると雲もいくらかとれて、江ノ島までも見渡せた。東は東京方面、全方位の展望だ。南には天気がよければ伊豆七島も見えるという。
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そしてなぜかこんなところに鹿もいました。それから、背中にポリタンクを背負って、これから山を下ると見える荷揚げのおじさんが「今マイナス4度」と声をかけてきた。おじさんは青いビキニパンツにロング・スパッツ、太ももは露出といういでたちに、口もあんぐりとはこのことか。「お、おじさん、寒くないんスか?」と思わず愚問を呈してしまったが、「今まで温まってきたからー」と何気なく。今からこんな格好だったら、夏はどうしているのだろうか?そんな疑問を山荘のおやじさんに聞くの忘れた。

僕はと言えば、汗で濡れた手袋が冷たく、濡れたタイツが冷たく、これは動くしかない。鍋割山までゆっくり行くつもりだったが、そういうわけにはいかず。
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ちょっと凍えつつ、こんな景色を見ながら行く。霧氷の花見。
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右から左に、丹沢山(1567m)から蛭ヶ岳(1673m)にかけての丹沢の主稜。
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続いて檜洞丸(1600m)。この主稜を今年は縦走してみたい。
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箒杉沢への断崖。落ちたらどうしよー。なんて思ってるうちに、あっという間に鍋割山荘へ到着。この間30分。残念ながらお腹も全然空かないし、冷えた身体もようやく温まってきたところ。ここで留まるのは良くないなと思い、鍋焼きうどんは諦めた。でも塔ノ岳よりも200mほど標高も低いのと昼の陽射しも当たっていくぶんか暖かい山頂で、江ノ島までも見渡せる展望を見ながら、みんな鍋焼き食べてる。いい匂いが漂ってくる。ここで先ほど挨拶を交わした女の子にまた出会った。女の子と言っても私より少し年下くらいの子だが、この半年、山で若い女性に出会ったことのない私はちょっとときめいた!しかも単独で、そしてアウトドア系のウェアの似合うナチュラルなかわいい女性だった。ニ、三言、言葉を交わしただけで下ってしまった。もう少しお話してみたい気もしたが、一人で山歩きを楽しんでる気分を邪魔しちゃいけないという気が先に出てしまった。きっと彼女は昼食に鍋割山荘の鍋焼きうどんを食べようと、早出して塔ノ岳も通過して、ここまで来たのだろう。下りながら、彼女の素敵な笑顔がちらつき、僕も次は鍋焼きうどんを食べるために鍋割山にまた来ようと誓ったのでした。

鍋割山からはモーレツな勢いとは言わないまでも、細かいステップで、足裏や爪先に気をつけて、いいペースで下りてきた。どちらかというと上りよりは下りがテーマである。山岳レースでは心肺や筋力的に限界のある上りよりも、心肺に負担の軽い下りでいかにスピードを出すかというのが勝負どころであるらしい。筋力的には大腿四頭筋とステップの技術が必要だ。しかし眼の悪い私は、路面を把握するのに動態視力が全然ついてゆかない。これは問題だ。

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栗ノ木ドウを超え、クヌギ山の小高い丘からも江ノ島が見えた。秦野の市街の向こうにあるのは夏に大山に向かったときに歩いた尾根道かな。そしてこの写真を最後にデジカメがいうことを聞かなくなった。氷点下の使用環境に耐えなかったのか。汗かいたズボンのポケットに入れてたし、急に気温が上がって、結露が原因かも。

約2時間半のところを1時間で下り、昼の1時半には山を下りてしまった。山と別れるのはいつも切ない。宇津茂(ウツモと読む)の集落の手前から舗装路をひたすら渋沢に向かって歩いた。歩くついでに渋沢から秦野寄りの温泉施設に行こうと思ったが、これが予想以上にかかり、途中小走りもして2時間もかかった。やはり舗装路は辛い。靴がランニングシューズなら、これぐらい(8キロほど)大したことないし、むしろ気分良いのだが。靴をもう一足もっていけるぐらいの大きさのバックパックを買おうかと思うぐらいだ。

ようやく着いた「湯花楽」は温泉ではなく、スーパー銭湯だった。でもがっかりしない。いろんな種類のお風呂があり、山歩きの後にうれしいのは水風呂があること。サウナなどのある銭湯にはたいがいあるとは思うが、小さな温泉にはないのが当たり前。脚の疲労には水風呂と温かいお湯と交互に入るのが、血行を促し自己治癒力を高め、効果があることを実感する。冷たいシャワーを足にぶっかけるのもよし。走った後もアイシングで冷たいシャワーをかけてからお風呂に入るといいみたい。露天風呂の空が少しずつ暗くなってゆくのを眺めながら、今日の山行もはるか昔のことのように思えた。

渋沢駅までまた歩いてたら、途中で消防車がわんさかやってきた。缶ビールを飲みながら、なんか焦げ臭いなと思ったら、僕の歩いているすぐ上から煙が出てた。ボヤはすぐに消えたらしい。小田急で本厚木に出て、同級生の友人がやっている焼酎バー「LINK」へ。「ちょうどよかった。ヒマでさー」と店長のK。Kの母様もスタッフの兄ちゃんも山登りするというから、さすが丹沢の近い土地柄。山が近くて水もきれいな秦野育ちのKを(初めて?)うらやましく感じた。いや、初めてじゃねぇ。10こも年下のかわいい嫁さんもらいやがってー(昨年11月結婚)。もうすぐ子供も産まれる。みんな大人になりやがって。一人遊びしてるのはオレだけか!で、お気に入りのチキン南蛮とビール。やはり疲れたのか甘いものが欲しくなったので濁りの梅酒で締めて、ヒドイことにならないうちに帰途に着く。

無事藤沢にたどり着いたので、2軒ほどあいさつ回りして、本日終了。3月のマラソンに向けて、山歩きはやはり脚へのダメージが大きいので、しばらくこれで封印しようかと。でも今日の反省、汗の冷えをどうするかを今後の冬山歩きにつなげたいと思います。やっぱいい道具買わなきゃねー。雪山を夢見て!
Commented by Chimay at 2010-10-20 14:42 x
塔の岳、温泉、でググってたらけっこう上位にこの記事だった!わたしはRunはしないので、尊仏山荘一泊くらいのほうがゆっくりできそうかしら。
先日木曽御嶽で初小屋泊したのだけど、なかなか寝付かれず悩みます。
Commented by barcanes at 2010-10-21 15:58
だいぶ前の記事ですなあ。山泊はやっぱりテントがいいですけど、丹沢は基本的に全域テント泊禁止です。テント担ぐのも大変ですけどねー。やりがいありますよ!
by barcanes | 2008-01-17 22:51 | Comments(2)