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誕生日ありがとう


Facebookなどネット上で行われる誕生日おめでとうに違和感を感じてプロフィールの誕生日を消してみてから、今年はとうとうハッピバースデーメールがひとつも来なかった。それでいいと思う。みなさんを試したわけではない。それでも一応の準備をしてみた。

最初に「ハッピバースデー!」って歌いながら入ってきてくれた同い年の女子。納豆=僕とのこと。他に誰も来てくれないことを心配してくれたけど、そのうち日が変わる頃にはたくさん来てくれた。たくさん、とは言えないまでも少数精鋭。僕は少数精鋭って言葉が好きだ。ゲリラみたいで。用意してた泡ものは2本ちょうどふるまえた。今年もFブラザーズから、もちろん別々に、アナログをプレゼント。このご兄弟から毎年、誕生日と開店記念日に頂いたレコードCD数知れず。もはや私は末っ子を自称している次第。カウンター両端に兄と弟が座れば、オセロのルールで全員がFブラザーズ。ナッシュビルからニュー・オーリンズを越えて。うちのレコード棚には「F」コーナーができるだろう。もうもらいすぎてていつもらったか分からなくなってる。
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ダメ男アニキがバックホームDJ(レコード取りに帰れる距離)してくれた後、「一番好きなレコードかけて」との声に、難しく考えることなく、やはりTom Waitsの「SMALL CHANGE」をかける。76年。ウォーリー・ハイダー・スタジオは71年には既に24トラックの2台使いで48トラック録音が可能だったと最近読んだ(「スタジオの音が聴こえる」高橋健太郎著)が、トムさんはもうこの時代のレコーディングにアンチを唱えたのか、2トラックの一発録音を敢行している。76年7月の5日間で録音。ドラムはシェリー・マン。サックスはルー・タバキン。秋吉敏子と「孤軍」「ロング・イエロー・ロード」を出した後のことになる。

僕がこのアルバムが好きなことには、このような裏付けがあったということに今日気づいた。マルチ・トラック録音が新技術として当たり前になっていた時代に、新たに得られるものより失われていくものを選び、オールド・タイムな録音にチャレンジしたのだ。トムさんはこの時すでにアンチだったのだ。

39年前のこの季節の録音。トムさん随一の初夏のアルバムだ。蒸し暑さが少しやわらぐような夜の、ミストのようなじめっとした爽やかさを感じる。曲間の間合いの長さに深夜の時の流れ方の違いが表現されているとも思える。
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15年前のニュー・オーリンズのバーで、このアルバムが流れた。A面最後から2番目の「I Wish I Was In New Orleans」。異邦人がこの地にたどり着いた気持ちを察してくれたのではないかと思うと、その心は今の、我々と同じなのではなかっただろうか。オンラインでは決して得られないものを、我々は隠し持っていなければならない。来てくれたみなさん、ありがとう。


by barcanes | 2015-07-11 05:30 | 日記 | Comments(0)