人気ブログランキング | 話題のタグを見る

トリックなんかじゃない/Tim Scanlanとトシ・バウロンwith清野美土

オーストラリアのメルボルンという街は、バスキングの聖地として知られているそうだ。いわゆるストリート・ライブが盛んに行われているらしい。何メートルおきかに多くのミュージシャンが並び、様々なパフォーマンスが繰り広げられている中で、人の足を止め自分の演奏を聞かせ、そしてお金を落とさせるのは大変なことだろう。

トシバウロンが昨年オーストラリアに旅した際に仲良くなり、これは日本に連れていって紹介したいと思ったのがTim Scanlanという人だ。既に世界中をバスキングで旅し、いろいろなフェスティバルにも出演しているそうである。旅慣れた彼は、一人で勝手に宿を探しては泊まり、この店にもちゃんと調べたのか、大きなバックパックと恐ろしく軽いギターケースと、カートにまとめた機材を引っ張って、一人でやって来た。

彼は一人で複数の楽器を同時に演奏する、いわゆるワンマン・バンド。はじめにトシさんにYoutubeの動画を見せられたときはおったまげた。左利きのアコギを弾きながら、ハーモニカでアイリッシュのメロディーを吹く。手を使わずに首にぶら下げたハーモニカ・ホルダーで速いフレーズを吹きこなすのは至難のはず。それだけでもスゴいと思うのだが、さらに両脚はカホンをキックし、ハイハットを踏み、そして踊るようなタップを踏むのだ。これは見物である。

そして当日、やはりライブは動画よりもスゴかった。まず彼の乾いたやや高めの歌声が力強くとても良かった。そして面白かったのは、ギターの低音をバグパイプのドローンのように鳴らす不思議なペダル。オクターバーも併用したりして、低い持続音を出し続けるアイデアも奇をてらったものではなく、全てのテクニックがしっかりと使い込まれ、メロディーとリズムの組み合わせもいたく自然に練り合わされていた。当然だがチューニングもしっかりしていて、楽器のバランスもいい。

今回はゲストの清野美土(ハーモニカ・クリームズ)が10穴のブルース・ハープを吹き、ハーモニカ2台という面白いハーモニーが聞けた。清野さんは手で覆い被しながら吹くディープな音色で、Timのと重なると、時にはアコーディオンのようにも聞こえてくるから不思議だ。トシさんのバウロンは、ちょうどカホンのキックとタップの組み合わせを重厚にしたかのようで、サウンドに厚みと柔軟さを加え、そして店内には重低音が鳴り響いた。

バスキングではキャッチーでトリッキーなものが人の耳目を集めやすい。しかしそればかり狙っていると、音楽が「薄くなる」とTimは言うそうだ。前日、都内のストリートで演奏した際には、短い時間でCDが50枚ほど飛ぶように売れたという。アイリッシュ・レゲエなんていうのもいかにもバスキングらしく、即興的な日本語の歌なんかも、いろんなものが混ざり合った感じで面白かった。

しかし一方、今日のような時間のあるライブではそういった派手めなものだけではなく、しっかりと聞かせるものもある。歌ものでの彼の歌声と、カナディアン・フレンチの曲などケルト系のメロディがやはり印象的だった。ワンマン・バンドは決してトリックではなく、メロディ、リズム、ハーモニー、そしてアンサンブルまで一人でやれてしまうという、ミニマムかつ素晴らしくバランスのとれた音楽のあり方だった。
トリックなんかじゃない/Tim Scanlanとトシ・バウロンwith清野美土_c0007525_284575.jpg

トリックなんかじゃない/Tim Scanlanとトシ・バウロンwith清野美土_c0007525_29647.jpg
いろいろな面白いミュージシャンを連れてきてくれるトシさん。音楽の趣味が合う。彼のバウロンの音色もディープで多彩です。
by barcanes | 2013-11-13 02:06 | 日記 | Comments(0)