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ある夫婦のために歌う

とある夫婦のためのパーティー。我々が木曜の夜にせっせと練習していたのはこのためだったのだ。はっきりと書けなかったのは、この夫が仕掛けた、誕生日の奥さんに内緒のサプライズ・パーティーだったからである。

他にも豪華なゲストがたくさん呼ばれていて、我々に求められる要件はまず、プロのミュージシャンにできないこと。悪く言えば「汚れ役」ってやつだ。長い時間のプログラムに、ひとつぐらい笑える演目がなきゃいけない。

我々は3ヶ月ほど前にオファーを受けていた。我々というのは田火田、ロケデリ、Cane'sの3店舗バラバラに何かやれとのことだったのだが、その場で勘の働いた我々は、「みんなで一曲でいいっスか?」ということで承諾を得た。

メンバーは田火田の橋本さんとピアノに川合治療院、ロケデリのコータロー君とユーキ君、私、そして太陽ぬ荘社長相澤君も入って、当初6名。メンバーを増やしてもいいがドラムは不可とのこと。このメンバーで何をやるか。何ができるか。そう、私はその場でアイデアが浮かんだのだった。そして我々は既に成功を確信していたのである。

4月のロケデリ「死神祭」までに曲を作り、こんな感じよとお披露目した。今回のネタはクールファイブの「逢わずに愛して」と勝新太郎の「君こそ我が命」、共に作詞・川内康範の名曲。二つ併せて憶えやすいようにシンプルな構成にした。歌詞はこの仕掛け人の夫をイジりつつも、男女の気持ちのスレ違いを歌った普遍的な内容にしておいた。

5月半ば、6人集まって初練習。定休日の私以外は、お店の営業を終えての深夜の集合だ。テンションも低い。まずは「わわわわー」のコーラスの練習をした。パート分けして一応三声のシンプルなコーラスを設定した。「音楽の授業みたい」「合唱コンクール嫌いだったなー」とほとんど初めてのハモリ作業に一同テンションが上がり、ハーモニーの力を感じた私であった。

これでインスピレーションを得た我々は、振り付け部門のダンス・リーダーを橋本さんに、衣装部門のファッション・リーダーをコータロー君に担当してもらうことにして、構想を練りながら大笑いして空き缶を重ねたことを思い出す。確実に笑いをとらなければならないという使命をここで一同確認したわけである。

方向性が決まれば、あとは自ずと完成に近づいていくわけで、その後4回ほど深夜の練習を重ねた。ひたすら一つの曲を延々と繰り返すわけだが、意外と飽きないものだ。振り付けの練習、確認、また新しい動きと、しかも笑っちゃいけないので笑いをこらえながらやる練習と、各自課題が多いと飽きないものなのだなと思った次第である。

歌詞は自分の歌うパートは考えてきてね、と笑える歌詞に変えた。リズムを取りやすいように川合君のピアノの右手は3連を叩いてもらい、普段マッサージの仕事では使わない筋肉に刺激を加えた。川合君とは6月初めの当店「Potluckナイト」で、この曲を人前で演奏する練習がてら二人でやってみた。

最後の練習からはクラリネット桝居さんに参加してもらった。桝居さんを誘ったのは何を隠そうこの私である。この夫婦へのお祝いの気持ちを持て余していたように見えた彼に、それでは我々と一緒にやりませんか、いややりましょう、いややるべきです、とソロのメロディーも考えて楽譜も書いた。桝居さんも率先してアイデアを出してくれ、本番当日のアドリブの効いた動きも一味加えてくれた。

こうして迎えた本番、曲名を言い忘れたり歌詞を間違えたり、いろいろと思った通りにはいかないもので、それでも8割ぐらいはできただろうから御の字だろう。振り付けの全体像は撮ってくれたビデオを見て初めて知った。そんなことになっていたのかと。練習ではよそ見をしちゃいけないし、笑ってしまうので見られなかったのだった。京都のさえちゃんが作ってきてくれたジャニーズ風のプラカードも素晴らしく効果的で、大いに盛り上げてくれた。

間違いなく我々が一番盛り上げたと思ったのだが、やはりそんなことはなく、錚々たるミュージシャンもみなさんいつにも増して素晴らしかった。誰のために何のために歌うかということがはっきりしているから、ということもあるのかもしれない。

特にシャンゴーズのまえかわの歌にはいつも以上にウルッときてしまって、後で聞いたら他のメンバーもウルウルきちゃってたらしい。我々もステージ後で高揚していたのかもしれないが、感動というのは与えられるものではなく、自分の中にあるものの代弁、共感であろうから、やはり我々の中にある祝福の気持ちが、引っ張り出す力を持っているまえかわの歌のようなものに共鳴して引き出させられたのだろうと思える。

ある夫婦のために、と目的がはっきりしているのだから、そのために歌えばいいのだ。そのことのために何を歌うのか、誰と、どうやって、そうして考えていけば、自ずと自分のやれることは決まってくる。大事なのは何のために歌うか、これである。個人的に今回は、自分の持てる音楽的素養と数少ない技量をすべて出し切った演目だったなあと、満足している。

夜は当店でその夫婦のための2次会。12人のDJが10分ずつ回して2時間。とは言っても軽く3時間はかかり、最後にはこの夫婦がチークダンスをしてチューで見事締めくくった。昼の3時から12時ぐらいまで、みなさんお疲れさまでした。
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その後「P.A.同好会」顧問のアニキと、先日書いたレーベルの話をレーベル経営者にいろいろ聞いた。レーベルをやるなら少なくとも1000枚は刷ってそれをどう売るかで、そうでもなければやる意味はないよと。我々のやりたいのはレーベルと言うよりはレコーディング・チームだろうと。売るのはCDRでもいいから、オーバー・ダブなしの一発録りで、自分たちが納得できる音の録音をやりたい。そしてその延長で、売れるものができたらみんなで売ろうじゃないかと。

そして今日もすっかり明るくなってしまったのでした。
by barcanes | 2013-06-23 23:39 | 日記 | Comments(0)