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末期癌の社会

「すばる」4月号に連載中の中沢さんの「赤から緑へ」第4回。癌(ヒトの生体から発生する)と資本主義(ヒトの心=脳から発生する)の類似性をテーマにしたこの連載も、新自由主義、グローバリズム、今問題となっているTPPに話が進んだ。

交換経済から発達した「市場」は「社会」があってこそのものだったのだが、現在、市場は社会の影響をなるべく受けずに存続できるように、社会を市場から駆逐しようとしている。社会のない市場だけの世界を作ろうとしている、と。人体あってこその癌細胞が、人体を駆逐して癌細胞だけで生きようとしている、というわけだ。

市場原理だけで世の中が動くことに反省と警戒を示した近現代の人たちは、社会=人体を守るために様々な保護機構=免疫機能を施した。関税、最低賃金、自然保護のための国立公園など。現在の新自由主義=グローバリズムはそれらの免疫をますますはずして、モノや金が自由に行き来できるようにするという。

その背景にはもともと別々のものだった企業と金融がくっつき、企業活動が資本の動きと密接になったことがあげられる。社会を豊かにするために働いていたはずの企業活動が、社会を無きものとしようとしている資本の欲動に同調せざるを得なくなり、社会を貶めるようになってしまっているのだ。

そう考えると、社会の大きな単位としての国を守るべく、ネオ・ナショナリズム的な動きが出るのもよく分かるし、それが極右ならその反対としての社会主義(日本は社会民主主義などとよく言われる)も、左右ともども同じような立ち位置にいることが分かる。ひと時代前に社会を守るべく左右に分かれて争っていたことも、その名残でTPPなどについて争っても、話はまとまるわけもなく、我々は世界まるごと末期癌への進行に突き進んでいくというわけである。

ともあれ、癌細胞は母体である生体なくしては生きていけない。世界は瀕死の状態で延命治療を続けていくことになるのだろう。社会をなくした我々はひとりひとりバラバラに、ギリギリの孤独の中で生きていくことになるのだろう。

帝国主義や国家主義に対する反省から、国の力を弱めていくことは人民の要求でもあったはずだ。世界の国々は今やどこも瀕死の赤字体質で、市場の動きに一喜一憂しながら、まるでゲームにはまればはまるほど抜け出せなくなる引きこもりゲーマーのようだ。「ゲームばかりしてるんじゃありません」と親のようにそれを止めてくれる人は誰もいない。ゲームを止めてくれるはずの親がむしろゲームにはまっていて、ちゃんとしろよと親に更正を促すことも、あるいはましてそんな親の復権を唱えることも、困難に思える。

そんな親もいつか死ぬ。親の残してくれた貯蓄と負の遺産ともに背負いつつ、自立していかなくてはいけないのだろう。そして癌を食い止めるのはやはり、ポジティブな心と身体の健康なのだろう。それは我々ひとりひとりの心がけ次第なんだろうということになってくる。それはつまり、ひとりひとりみんな違うやり方だよっていうことだと思うんです。

つづく。
by barcanes | 2013-03-18 12:36 | 日記 | Comments(0)