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「炊き出しプロジェクト」楽しかった!

みなさまの支援を受け、相馬の炊き出しプロジェクトに行ってきました。とは言いながら、私はプライベートな事情で遅れて参加することになり、水曜の営業のまま朝を迎え、木曜朝5時集合で集まった(若干一名、若輩が遅刻)炊き出しチームを当店前からお見送りしました。
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私を除く炊き出しチームはお昼頃相馬に着き、大量の野菜を切り刻みまくったそうです。包丁の使える、特に本職の料理人の切り刻む音と背中がカッコ良かったと、チーム唯一の女子がキュンキュンしていました。仕込みの合間には津波の被害の残る地域を見て回り、福島第一原発立ち入り禁止20キロの地点まで行ってきたそうです。そして仕事の後にはひとっ風呂浴びて、私が着く頃にはすっかりチームの結束も高まり、イベント前夜の壮行会の席も、良いチームに出来上がっていたのでした。

遅れて私は一人新幹線で、東京からあっという間に福島駅に着き、相馬行きのバスに乗り込む予定でしたが、後発隊の車に同乗させていただくことになって、2時間の暇つぶしと相成りました。福島駅東口をぶらぶらと歩き、古着屋や飲食店の並ぶ「文化通り」にたどり着き、目に付いたカフェに入りました。ボーダーシャツとハンチングの若い女の子の店員が、カウンターに座った常連客の男性とずっと話をしていました。瓶ビール一本で随分と長居させてもらい、肌寒い夕暮れの商店街を駅へ戻り、車に拾われました。国道115中村街道を前回と同じ行程で、ガイガーカウンターの数値は以前より軒並み下がっていましたが、やはり霊山付近の山裾は1マイクロ・シーベルトを軽く超えていました。

夜9時過ぎに相馬の居酒屋さんに直行すると、今日一日作業した相馬チームと先発隊が待ちかまえており、しばらくしてイベント首謀者とゲスト夫妻が登場して、そこからは大笑いしてる間に夜も更けていったのであります。お店のマスターからは次々に素晴らしい東北のお酒が出てきて、「十四代」で乾杯したのも良かったのですが、特に「田酒」の青いラベルの原酒はトロトロの濃厚で、他にも「乾坤一」など美味しかったなあ。

壮行会というか前打ち上げでイベント前夜から深夜まで盛り上がり、私と炊き出し隊長は2次会にも巻き込まれ、イベント首謀者の某は感謝の気持ちを精一杯の酔いっぷりで表現していました。我々も含め、みな自分の仕事を脇に置いて、自腹赤字覚悟で来ているのです。強い気持ちを持ち続け、みなを巻き込み、あるいは挑発して、文句も嫌みも言われながらも実現にこぎつけることができるのは、イメージを現実にする、アーティストの力量であるかもしれません。その意味では、行政も政治家もアーティストでなければならないのでしょう。0から何かを生み出し、イメージを現実化することで未来を作るのですから。しかしやはり、アーティスト個人やプロフェッショナルの力だけでは動ききれない。スタッフや裏方が必要です。我々のような市井の民間人が自らスタッフとなり裏方になって参加すること。我々は飲食業者として裏方に徹してきました。

特に私としてはGattiチームの参加がとても嬉しく、彼らは開店準備にも忙しく、改装などで一ヶ月以上収入もない中で、それでもスタッフ3人全員で参加してくれたのです。後からしてみれば、彼らがいなかったらとても実現できなかっただろうし、彼らのおかげで我々のチームワークも素晴らしいものになったのです。彼らには、開店前の研修旅行、早い夏休み、開店前の思い出づくり、などといろいろ言ってなんとか騙して来てもらったのですが、彼らの士気と人となりとチームワークの良さは、彼らのお店にも出ていると思いますし、なによりも10年来の付き合いでもあるシェフTの料理は派手さはなくてもとても美味しいです。これを読んだ方、今回の炊き出しプロジェクトを応援してくださったみなさんは、ぜひ一度は新店「Gatti」に足を運んでください。そして藤沢北口を一緒に盛り上げてもらえたら嬉しいです。(7/24(日)11:30am開店です!)

伊タリアン伊酒屋 Gatti
〒251-0052 神奈川県藤沢市藤沢1006-1 105
TEL:0466-23-2128

さて我々が2次会に飲み込まれている間、炊き出しチーム別動隊は地元スナックに突撃してお金を落としてきたそうであります。さらに某店シェフは一人姿をくらましもう一軒攻めてきたそうで、一時行方不明になりました。それでも我々炊き出し隊男チームはホテルの大部屋に布団を敷き詰め、みんなで雑魚寝しました。久しぶりの修学旅行というか合宿の気分で、最若手は寝る直前までエロサイトの更新情報をチェックしていました。私はみんなが寝静まった後、せめて一つぐらいは仕事をしようと思って、明日行列してもらう間にお客さんに読んでもらう口上の張り紙の下書きを作成しました。そして、今日なにも手伝っていないし作業をなにも見ていないにも関わらず、前夜にして成功を確信し、炊き出し隊長以下、いいチームになっているのが嬉しくて、そして今日あった自分のプライベートの出来事も嬉しくて、幸せな気分で布団に入りました。
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明朝はケータイのアラーム音声が「インディー・ジョーンズのテーマ」と「時間になりました」という女性の声が永遠に繰り返される中で、可笑しくて目が覚めてしまい、ホテルの朝食を朝から元気におかわりして、ロビーで昨夜の下書きを清書していると、従業員のおばちゃんに「来てくれてありがとねー」と感謝されました。明日の「野馬追い」を見ずに帰るのを残念がってくれました。

完全に酒が抜けていない状態で元気よく会場入り。私以外は作業内容が把握できているので、私だけ仕事が見つからず空回りしております。はっきり言って、昨日の分を挽回しようにも、どうやって働けば役に立つのかが分からないので少々緊張気味でありました。会場設営などでようやく仕事を見つけ、炊き出しの盛り付けのラインにも仕事をもらい、ようやくチームの一員になってきたのでした。
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開場時間よりも早くおばちゃんたちが集まり始め、我々の準備も早くできていたので、予定より早く炊き出しを始めました。ご飯を盛り、タレと海苔、具、ゴマとネギ、スプーンとお茶、の5人のラインです。具材はトマト、キュウリ、オクラ、ミョウガなどに鰻の蒲焼きを一口大に切り分けたものを混ぜ、味を付けたものです。かなり粘りが出ています。ご飯にも少し特製タレを付けます。お客のおばちゃんの中にはレシピを教えてくれと隊長を呼び、紙に書いたものをコピーをとってもらって、お仲間に配っている人もいました。

多めに用意した分量よりも来客が少なかったので、おかわりをした方もたくさんいて、我々スタッフも最後にたくさん食べたのですが、かなり美味しかったです。私は山盛り2杯食べてお腹いっぱいになりました。炊き出し隊長、田火田店主が事前に食材等を考え、分量を計算し、味付けを行い、当日はGattiシェフと二人で責任を持って大量の味付けをするのだから、見事な仕事でした。これは素人ではできない炊き出しになったことだと思います。みんなしばらくはオクラやミョウガは見たくないと言っていましたが、私は次の日にはまた食べたくなる料理でした。みなさんにも食べてみてほしかったなあ。

イベントは始めに首謀者某がひばりさんの「リンゴ追分」を歌い、映画はこの日のために特別に編集された美空ひばりのコンサート映画でした。私は少しずつ片づけを進めながら、最後のところだけ見ました。ちょうどフィナーレの「人生一路」につながる「終わりなき旅」のワンフレーズから歌い始めるところ(88年東京ドーム不死鳥コンサート)で、その歌詞だけで、泣けました。

苦しくとも 悲しくとも
終わりなきこの旅を
歌で つらぬかん

終演後、おばちゃんたちが炊き出しの少し残った残りにまた並んでくれて、片づけもあっという間に終わり、私はひとっ風呂浴びちゃいました。この会場は、400人ぐらい入るホールと、障がい者施設と老人施設と、いろいろ混ざった複合施設で、公衆浴場にもなっており、また最近までは震災の避難所でもあり、ボランティア・センターにもなっています。浴場のおっちゃんたちはなにやら野馬追い祭りのことを話しており、明日の野馬追いのパレードの行程が例年よりも短縮されているようで、その行程についてあれこれ言っているようでした。訛りと反響でよく聞き取れなかったけど、もう少し長風呂すれば分かったかなあ。

スタッフ全員で記念撮影。5時に出発。災害ボランティア割引で安く借りれた1800ccのステップワゴンに7人乗り、東北道サービスエリアで何度も休憩しながら藤沢には夜12時ちょうどに到着。今回私は、飲み屋と宿と会場以外に、相馬のどこにも行かなかったし、なにも見ませんでした。でも二日間、みんな睡眠不足で大変だったけど、楽しかった。楽しかったから、まあいいや。自分たちが楽しかったから、あまりボランティアとか言えないけれど、だから我々は「炊き出しプロジェクト」でいいのだ。

帰りのパーキングの喫煙所で一服、ふと、この一日、炊き出し以外になにも考えていなかったな、と急に現実逃避から我に返ったような気がしました。Gattiシェフには仕入れの魚屋から電話がかかってきて、私はお酒の仕入れしたっけかな、と気になってしまいました。すると隊長は「仕事の話やめようよ。もう少し現実逃避させて!」と言ったのでした。(彼はこの炊き出しのためにお店を4日休むことになったのです。)

そうだよね。我々はひとつの現実逃避をしに来たのだし、見返りがなくてもやりたくてやるスポーツのように、そしてお客さんが喜んでくれて、我々も喜んで、報酬もお金も気にせず(それに関してはもともと疎いのだが)、意外にピュアにこの二日間を過ごしたのだ。これは何かに似ている。昔懐かしい部活のようでもあるが、誰かに守られているわけでもないし、ただの青春でもない。我々はちゃんと仕事をしたのだ。しかし、我々の個々の店をやっている現実とは違う。集団になじめず独立してお店をやることを選んだ我々だが、こうしてチームを組んで仕事をすること、収益に関係なくただ美味しく食べてもらうこと、チームワークを信じて仕事ができること、これはなかなか得難い経験だったのだ。

こういう感覚で災害地にボランティア的行動をしに出かけることに、なんらかの否定的意見を感じることもあるかなと思ったが、なにもなかった。我々にとって現実逃避でも、その場に住んでいる人たちにとっては紛れもない現実である。しかしこれは、如何ともしがたい仕方のない問題で、だからこそ、我々はそれぞれの現実の中で生きるしかないのであり、どう生きるかなのだ。どの現実も否定できない。我々の間にある現実の違いも、どうしようもできない。しかし、だからこそ我々自身の現実を選ぶのだ。きっかけは、どこかにある。誰かがチャンスを与え、あるいは機会が巡り、誰かが手を差しのべ、誰かが背中を押す。しかし、与えられているだけではまだなにも選んでいない。選ぶことが、選択し自分で決めることが未来を作るのだ。我々は今回、チャンスをもらい、そして余裕があるとかないとかに関係なく、そのチャンスを選び取った。そしてその場その場で未来を作ったのだ。誰だってその場にいれば同じことができるかもしれない。しかし、その場にいなければ、誰も同じことはできないのだ。そのことになんのやましさも否定もあるものか。

後日、隊長はしきりに私に「ゴメンねー」と言う。私はその真意をはかりかねているところもあるのだが、それはもっとハードな状況を想定していたからで、もっと困難な状況で、行列が押し寄せ、人手も足りないような中で、真剣にチームとして戦いたかったからなのだろう。このドMめ。確かに多少の不完全燃焼感は残った。我々はまたチームを組んで、次のチャンスに出かけるだろう。あるいは、またどこかのイベントで。お目にかかることもあるかもしれない。

最後に、今回の藤沢炊き出しチームに参加してくれた「こうちゃん、ボルト!」こと宇野氏に最大の謝辞。包丁からトークまで、運転からムードメイクまで、すべてをこなしてくれました。彼がいなければこんなに楽しい思い出にはならなかっただろうな。そして現地で手伝ってくれたみなさん、「ゆずや」のマスター夫妻、相馬の森田さん、中野Pをはじめスタッフのみなさん、ひばりプロ夫妻、そしてなにより首謀者某の「無茶ぶり」に感謝しています!

みなさんからいただいた「炊き出しプロジェクト」への支援も、当店、田火田、Gattiそれぞれのお客さんからいただいたものを合わせて、我々の交通費旅費に使わせていただきました。おかげで我々の持ち出しは最小限にすることができました。災害支援ということで高速代はほぼ無料でしたし、レンタカーも安かった。みなさんの支援のおかげでこんなに楽しい思いができ、そしてそれをみなさんにも多少なりとも分かち合っていただけたのではないかと思っています。当日はtwitter等でたくさん応援もいただきました。一緒に行きたかったと言ってくれる人もたくさんいましたが、それはやはり、みなさん自身にかかっているのです。首謀者某も言っていましたが、奇跡は自分で作るのです。私はそんな偉そうなことだけ言って、我々は隊長の指揮のもと、チーム合わせ技で一本!といったところでしたけどね。

カメラ担当若輩から写真が届いたら載せたいと思います。

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藤沢に着くと、今日は「sausalito」マスター、ジョージさんの誕生日だというので、顔を出しに。せっかくのフライデー・ナイトなので、もう一軒、久しぶりに「ベルーガ」に寄ろうと思ったら、改装中でお休みだった。しかし、ビール2杯でなんだか酔っ払った。やっぱり疲れているのだ。帰ってすぐ寝たけど、翌日は起きられなかったなあ。
by barcanes | 2011-07-22 20:23 | 日記 | Comments(0)