リスナーの補整力とカセットテープ(前半)

4/25(火)

「アフリカの月」の異名を持つネエさんはコーヒーとガンメルダンスクを飲んでいる。バラフォン(アフリカの木琴)のCDを聞く。西アフリカを旅したことのあるネエさんは、現地で聞いた音のイメージを持っている。私もどこか定かではないが、この楽器の生の音に触れた記憶がある。(ここCane'sでは幅3メートルもあろうかというコンサート用マリンバを聞いたことがある。)そしてこのようなタイプの、いわゆる電気を使わずに大きな音量を出すことのできる体鳴楽器は特に、身体に響いてくる振動や四方から回り込んでくる(あるいは消えてゆく)空間性など、録音再生が難しい。

というより、どんな楽器であろうと正確に音を拾うということは不可能であり、正確でないものは再生しようがないのである。そこで役立つのが「リスナーの補整力」である。不正確さや欠けているものを、我々の耳や脳みそが補整している。そこには記憶や経験が作用している。だから録音音楽を聞くには、多くの「生」の経験があった方が良い、ということになるだろうが、音楽自身はおこがましくないので、そんなことを押し付けたりはしない。

ビールとラムぐらいしか飲まない客人が珍しく冷酒を所望したので、私は誰に押し付けられるともなく、季節も終わりつつある売れ残りの日本酒を飲んでいる。

我々リスナーには欠けているものを補うだけの想像力があり、そしてむしろその想像力を喚起することによって音楽に興味をそそられ、そして引き寄せられる、という要素もあるのだと思える。録音物が物足りなければ「生」を聞きに行けと。あるいは「生」が不可能だったら、録音物と想像力とで十分に楽しめるじゃないかと。

私などはテレビやラジオから、そしてレコードやCDからリスニングの経験を得てきてしまったから、例えば多くのバンド経験者が初めてスタジオに行って鳴らしてみた時に思ったように、楽器の、特にドラムの音がそれらで聞いてきたようにはどうやっても聞こえない、という問題が起きる。コンサートに行けば、しっかりとP.A.され、しかし会場の音響でボワーっとした音でしか聞こえないし、小さな会場であろうと完全に生音ということはなかなかないのが実情であろう。

いやそんなことはない。クラシックは基本的に生音ではないか。それに私の店のようなところでは、ということで小さな会場に来た方がいいよ、という宣伝になってしまうのだが、しかしそれだって、本当の「生音」というわけではなかったりする。音楽そのものは決してそんなことを押し付けたりはしないのだ。(でも望んではいるかもしれない。)

例えば食材そのものの味を知らなくても料理を楽しむことはできる。とれたての野菜や海産物の美味しさを知っていた方が豊かだと思う。しかし全てを体験済みということが必ずしも幸せでもない。我々は正しく補正しているわけではなく、自分の良いように整えて補整しているのだ。

サラウンド・システムでさえ、ある平面で切り取られたものを球面状に配置することと、その中心点にリスナーを固定することによって効果が得られるわけだが、それもそのシステムの効用に自ら合わせることで補整しているということになる。現実を補整してバーチャルなものに合わせていこうとすることも、音楽は得意にしてきた。だから人間が非現実なこと、例えば凶悪なことをするのも当然である。

楽しめることを補整して楽しんでおかないとあっという間に人生は終わってしまう。どんな社会であろうと良くも悪くも自ら補整して生きてゆく。我々の補整力とは都合の良いものである。だから、その補整力を健全なものにしておきたい。健全とは自然に近い、野生的なものとしておきたいと思う。だが同時に凶悪で非現実なことも野生的ではある。そもそも健康ということの意味さえ我々は分からなくなってしまっているのだ。私の親たちは延命と長寿の間で悩み、誰でも何らかの病名をつけることの可能な時代には、病気とはもはや悪ではなくむしろ共に生きるべき個性である。

「リスナーの補整力」について軽く書こうと思ったらなんだか迷宮入りしてしまった。なので後半に続きます。

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公園でなっちゃんと拾い集めるのが流行ったコレ、なんだかわかりますか?桜の花が落ちた後に落ちてくる、花の萎れたところを引っ張ると出てくる、サクランボのなりそこないだと思うんです。枝についたままのは膨らんで大きくなります。「サクランボちゃんが出てこないー出てこないー出てこないー」って歌いながら拾いました。

(後半に続く)


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by barcanes | 2017-05-02 04:42 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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