止まっている時間

3/13(月)

なぜだか分からないのだが、久しく来ていないお客のことを思い出すとその人が現れる、ということが奇跡とは呼べない頻度で起きる。「子供がいると日々の変化が分かっていいよね。毎年あっという間でさ。なんだか疲れが抜けなくなってきちゃって。・・・でもここは、時間が止まってるみたい。」相変わらず変わりばえもせず、新しい要素が何もないとでも言われてるのかと訝しむ私は歪んでいるのだろう。返答に困る。もしかしたら若い頃を懐かしんでいるだけかもしれない。

止まっているのは時間だけでなく、一向に進まない会話でもある。少なくとも時間は止まりはしても戻りはしない。私たちを挟んだカウンターの距離もまた、進むものも何も見つからない。彼女が若くてキレイだった頃から変わらず。いや、以前はよく話も聞いたっけ。

遅くに仕事終わりの客人が来て言った。「最近ここに来ないと誰とも喋らずに一日終わっちゃいそうで。」家と職場の往復では、家の会話と仕事の会話以外の、余計でどうでもいい、つまり大事な話をしないかもしれない。一人暮らしの人なら余計に。私も君と一番喋ってる気がするよ。

たくさんの常連客で賑わっていた頃、お客さんは顔なじみの客同士でほっといても喋り合っていた。「それでもみんな、ゲンちゃんに会いに来てるんだよ。」客が疎らになるとアニキたちはそう言ってくれた。いつしか私はお客の話をあまり聞かなくなってしまった。結婚して歳をとるにつれ、他人の生活や人生に踏み込むのがメンドクサクなってきてしまったのは否めない。自分のことで精一杯になってしまったのだと思う。

「ここは私にとって聖域です。」今年はひとつだけ貰えたバレンタインのお返しを、ちょうど渡そうと思っていた女性が遅くに来店。家と職場の往復の、ちょっとした隙間。寄り道の駄菓子屋。最初はそんなに会話もなかったけれど、それでもいつしかいろんな話を聞かせてくれるようになった。

そうか、聖域だから時間が止まっているのかもしれない。そう言えばさっきの彼女からも「義理チョコね」の一言をいつも忘れずに添えて、バレンタインのプレゼントをもらっていた頃があった。

今日は夜になってからお返しを用意しとかなきゃと慌てて、店に来る前に買いに行った。だから思い出したのだと思う。私はあの頃、ちゃんとお返しをしていただろうかと。

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ある女性が来たら渡して欲しいと、ホワイトデーのプレゼントを預けていった男がベラ・フレックをリクエストした。そんな「二人のため」というわけではなかったが、エドガー・メイヤーとのデュオ盤"Music For Two"(2004年)は2年の歳月をかけたライブ録音。ボーナスDVDに入っているそのメイキング映像を一緒に見た。バカテクで絡み合う二人。愛には違いない。最後の収録日とのアナウンスを受けた聴衆たちが見守る演奏では、緊張感がこちらにまで伝わってきて、まさに時間が止まっているかのようだった。


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by barcanes | 2017-03-18 04:25 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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