孤軍

2/7(火)

フランク・シナトラではダメだったようで、プラターズのベスト盤に替えてみた直後。「君は私のことを何か知ってて、それで素っ気ないのかね。さっきから態度がいやに冷たいじゃないか。」

アンディ・ウィリアムスはないかと聞かれて3度目までは「ちょっと分かりません」と言ってかわしたが(どっかにあるような気もする)、4回目にはきっぱりと「ないです」と答えた。そんな私の前に立ちふさがった客人はそう言った。

「いや、知らないです。それに普段から愛想がないものですから。すみません。」カウンターに逃げ込み(そう、カウンターは私の避難場所だ)、そう謝っておく。(謝ってしまうというのはズルいなといつも思う。)ビール一杯のお会計を済ませてお帰りになられた、なと思った時、ベスト盤から「オンリー・ユー」が流れた。ドアの開く音がして客人が戻って来られた。

「これは聞いていかないとな。じゃあラムを何か作ってくれ。ところでアンディ・ウィリアムス…。」
「ないです。」
「では秋吉敏子とルー・タバキンをかけろ。」
そこで思い出した。以前この客人に同じレコードをかけたことがあったことを。知らなかったわけでもなかったのだ。A面が終わってソファから腰を上げ、「孤軍か」と言ってお帰りになられた。
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先日テレビでやってて久しぶりに映画版「風の谷のナウシカ」を見た。実家から原作マンガ(全7冊)を掘り出してきて、パラパラとめくっていた。そこでもナウシカが孤軍奮闘していた。10年ほど前に読んだ時よりだいぶ印象が違って読めた。汚濁と浄化のサイクルの末に完全なる清浄を目指そうとする世界の「秘密」に対してナウシカは否を叩きつける。

一人残った王女(クシャナ)は代王制を取り(それは象徴天皇制のようなものか?)、「秘密」を破壊し尽くしたナウシカは時代を原始の状態(新石器時代あたり)に戻したのだろうか。そしてその「秘密」とは何だろうか。科学、経済、法律、医療生命などあらゆる先進的な技術が進歩と共に併せ持つ裏面性、あるいはそれらの上澄みが一部の者に限られる密室性。

放射能爆発後の汚染された世界に我々は住み、「ポスト真実」なんていう汚物的な先進技術を曝け出し合う世の中はいよいよリアルに世紀末的だ。でもそれらは今に始まったことではなくて、以前には覆い隠されていたものが溢れ出してきただけのことなんだろうと思う。暴くに労せずして人間の汚毒が見えやすくなった。そんな汚毒は「腐海」の森のように世界を覆い尽くすのだろう。

だから我々はもはや、毒をもって毒を分解する「蟲」や、そんな蟲たちの住まう腐海に生きる「蟲使い」に近い。つまり以前の視点は風に守られた辺境の地「風の谷」の住民だったかもしれないが、今やそれは腐海の中にあるということである。毒にも薬にもなる、と言うけどほとんど毒であろう酒を使って商売している私は、ほとんど蟲使いである。世界を浄化するなどという崇高な目的に与せず、ただ環境に適合し共生するのみ。そして奮闘する孤軍、救いの使徒を待っている。腐海の奥の店で。聞こえない声、失われし時代の音、聞こえないはずの音を聞こうとする者を。

さて週末の土曜日には「SP盤スペシャル」である。1950年代までの音楽を高速78回転で聞く。聞こえないはずの音が聞こえますよ。で、オールディーズな気分でも高めていこう、と思ったところでファン研部員が持ってきたアトランティック・レコードのCD8枚組。1枚目は1947〜52年。まだジェリー・ウェクスラーが入社する前。アトランティックの前史といったところか。「R&B」という感じが出てくるのはDisc2のやはり53年頃から。ロックンロールとドゥワップが同時にファンクし始めているように聞こえる。これは新しい聞こえ方である。ロックンロールとファンクは黒人音楽として同根なのではないか。
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姫さまの周りにいるのが蟲使いのみなさんです。


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by barcanes | 2017-02-11 13:34 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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