皮&アンコ、ブレッド&バター

12/10(土)

今年6月に急に私たちの前からいなくなってしまった人を、半年経ったからそろそろ偲んでもいいんじゃないかという名目で、長老組のお二人が発起人になってくれて、久しぶりのお客さんたちが集まれる日にした。と言ってもあの大常連がこの店に通ってくれたのはCane's以前に遡り、20年を超える長期に渡っているので、とても全ての人たちには届かないし、オフィシャルなものでもないし、呼ばれて困惑する方もいるだろう。今回は「銅メダルの父」を中心に、Cane's15年の歴史の中では第2期あたりの常連だった皆さんに声をかけた。

こうして改めて振り返ってみると、お客さんは常に去ってはまた新たな顔が入ることを繰り返し、大きく分けると今は第3期、あるいは4期目に入ったかなという気がする。それまでのお客さんたちは、結婚や出産や引越しも含め、何らかの理由でほぼいなくなってしまったか足が遠のいてしまったか。「卒業」という言葉を使うとすると、今回は第2期の卒業生の同窓会になるかのな、という気がしてた。

実際は、ここは学校ではないのだからそんな雰囲気になることもなく、往時の金曜日みたいに誰か来ては誰か帰り、半年前のお通夜以来の常連や現在のメンバーたちと、カウンターが埋まったり席を詰め合ったり、譲り合ったり立ち飲みになったりまたズレて座ったりしながら、初めてっぽいお客さんがソファーに座り、Funkアニキが持ってきてくれたFunkレコードを聞き、最近では滅多にないような賑わいではあったが、いつもと同じような時間が流れていった。

故人の話は思ったよりあまりしなかった。まだ皆さんの心は癒えていないのだと思う。少し前に、実はここに来ると思い出しちゃうからあまり足が向かないんだよね、って告白してくれたヤツもいた。自分もそうだから、実はあまりそんな話ばかりはしたくなかったのだ。だから皆さんがちょっとした思い出や笑い話を少しずつ出してくれたぐらいで、ちょうど良かった。それよりもみんなが今の自分のことを話したり聞き合ったりしていて、それで良かった。もしかしたらもっと故人の話をしたかった人もいたかもしれないけど、そんな癒えない気持ちを分かち合ってくれて、それでいい雰囲気だったと思う。

ちょっと遅れてきたアニキが、来てすぐにビールを3杯注文した。一杯は自分に、一杯は私に、そしていつもビールを飲んでた故人に。そうしてそのコースターのわずかな周囲に故人の場所ができて、私は何だかホッとした。当然、故人はそこに飲みに来ていたと思う。ビールが少し減っていたから。

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(今ではもう30半ばの)若手がわざわざ銀座まで出向いて、思い出の「空也の最中」を予約して買って来てくれた。みんなに配ったけど、意外にも思い出のない人が多かった。そうなのかもしれない。遅い時間の最後の最後で出してくるのだ。故人はいつも何かしらのお土産を忍ばせていて、営業先やなじみのお店や、あるいはおそらくキレイな女の人に出会った時のために、それを取り出すのである。そのオコボレに預かるのは、たぶん私が一番多かったのだと思う。時には「お母さんに」って渡してくれる。それを母に持っていくと、「いやらしい人だねえ」とアンコが好物の母は笑った。

私が結婚することになり、嫁さんの実家に初めて挨拶に行く前の晩、故人は手提げ袋に入ったあの最中の包みを持って来てくれた。私が手土産を用意するような気の利いたことができないのを知っているからである。私は忘れていたけど、余った最中を持って帰ったら妻にそう言われて、思い出した。

無造作にも取り出しやすい、しっかりとした皮に包まれた小ぶりな最中を指先につまみ、口に入れてひと噛み。サクッと口の中に香ばしさが広がる。控えめなアンコの甘みが皮の風味を打ち消さない程度に追いかけてくる。皮とアンコのハーモニー。いつも無碍に頂いていたけど、もう滅多に食べられるものではないから、今までにないぐらい有り難く食べた。ビールに合うツマミなんてないというのが自分の考えなんだけど、これだけは合うと思う。そう話してたよね。

いつも故人にしてもらっていた様々なことを、いつでも当たり前のように受け取っていた。たかだか飲み屋の年若い店主を、逆の立場からいつでももてなしてくれた。いつもこの店が大切なんだと、ないと困るんだと、「何かあった時には必ず守ります」と確証のないことも、言ってくれていた。そんな言葉のおかげで、自分がやっていることが大事なことのように思えた。たったそれだけのことで店を続けてこれた。それは感謝とか応援とかいうだけではなく、誇りを与えてくれたということなんだと、今ようやく分かる。私のような店主が、きっと他にもたくさんいたことだろうと思う。

夜も深くなってきた頃、故人の好きだったレコードをかけた。私にとってのイメージはやはりハイ・ファイ・セット、ユーミン、そしてブレッド&バター。客人の中にはサーカス、尾崎亜美や竹内まりやという意見もあった。洋楽を挙げる人もいたが、音楽にまつわる思い出も人それぞれあったのですね。そんな中でも今夜はブレバタが一番沁みて、朝まで何度も聞いた。

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「SHONAN GIRL」「カタカタ想い」など、故人のイメージそのままのアルバム『パシフィック』(アルファ3rd 81年)。私の誕生日の前夜12時頃に必ず現れ毎年一緒に過ごしてくれた故人に、もう祝ってもらえなくなった今年の誕生日、Cane'sの妖精がプレゼントしてくれた。


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by barcanes | 2016-12-12 04:44 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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