分かりやすくなくてよい

9/20(火)

土曜日のVoicesを録音したものの中の、特にSP盤のコーナーを、その日来られなかったレコ屋店員と聞く。ゲイトマウス・ブラウンを知らないと言うではないか。しかし私だって、関根さんたちのかけるレコードの大半は名前さえ分からない。「こんなの、例えばCane'sに来てる若い女の子が聞いたらどう思うんですかね?」

我々はある程度の素養と基礎知識があるから、あとは音を聞いて、興味をそそるようなものがあればその声や音色や音の構成や演奏を楽しめばよいし、歌っている内容やその頃の時代や場所や録音環境などを想像する楽しみというのも味わえる。

しかしだからと言って、分からない人に分かるように分かりやすく伝えようとする必要があるのだろうか。どの時代にも一部のマニアックな人たちが密かに楽しみを守っていたような文化芸能の世界があり、それは決して分かりやすいものではない。かと言って閉鎖的なメンバーズオンリーかと言うわけではなく、少なくとも我々は門戸を開いている。

私は最近FUNK思想にやられているので、「踊れない白人」のためにファンクを単純化して商品化したディスコ・ミュージックを槍玉にあげて敵対するファンクの立場に立ってしまえば、分かりやすさを売り物にしてしまうと自らの首を絞めることになる、という罠からは逃れてきたのだと思う。商業主義は必ずしも悪いわけではないだろうが、それが気づかぬうちに搾取し貶めているものに踏み込めないまま(かと言ってそれと面と向かって戦うわけでもなく)、結果的に「消極的アンチ商業主義」となっているわけだ。我々はそれを消極的とは言わずに「ゲリラ的」と呼んでサバイバルしてきたわけであるが。

他人を傷つけることを恐れて発言に気をつけて、分かりやすく生きようとしてしまうと、人は感謝と感動とハッピーと頑張り(とお金)しかなくなってしまう。商業主義と分かりやすさの果てに、スポーツも音楽芸能もディスコ化してしまうのである。なんと生きづらい世の中だろう。搾取し貶めているものとは、ぐるっとひと回りして結局、自分のドロドロしたものを含む本性、ファンクで言うところのファンクネスである。感謝と感動とハッピーと頑張りの表向きの、その影にあるものをどこかに吐き出すしかない。だから、そういう部分のない音楽はつまらない、ということになるし、そういう趣向でいいと思う。

このような重趣味的なイベントをやり、このような店をやっている意義はあると思っている。一部の人たちのためだとしても。それにしても逆説的に、ハッピーじゃないものを好む我々はそもそも十分にハッピーなのかもしれないし、感謝と感動とハッピーと頑張りを世の中が求めるということは、それらはいくらあっても困らない「お金」みたいなものなのかもしれない。

それを仮に、「感情の商業主義」と呼んでおこう。たとえば、プロを目指していようと一介のアマチュアでしかない高校球児が、感動を与えたいとか感謝を口にするのが私には恐ろしく感じられるのだが、彼らは立派なプロ意識を持っているわけではなくて、感情の商業主義にやられているだけなのだと思える。ないよりはあったほうがいいと。あるならもっとあったほうがいいと。彼らが余計に売ってしまったもののツケを支払うことになるのは誰だろう。よく分からない。もしかしたらお金じゃない利益を受け取っている私と同様、違う利益を受け取るのかもしれない。

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いつも終電ぐらいの時間に仕事帰りで寄ってくれる僕らのアイドル嬢が、この日は都内で遊んできた帰りですーと。コアなテキサス・ファンクLittle Royalはすぐ止めた。なに聞きたい?と聞けば「セプテンバー」。アースじゃなくて竹内まりやね。雨も降って肌寒い季節になってきちゃったね。9月ももう終わっちゃうね。

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その曲が入ってるレコードは持ってないので、ファーストを。すごいねー。デビュー作から内外の一流ミュージシャンが揃っている。女子大生っぽいセカンドのジャケより大人っぽくも見えるけど、いかにもいいとこの帰国子女って感じ。その後の鼻にかかった感じの声ではなく、誰にでも好感が持たれるような素直で堂々とした歌いっぷり。僕らのアイドル嬢にもぴったりのイメージ。

まりやちゃんを3枚ほど、さらにCDをかけて引き留め工作をしていたら、ちょうど南口の店主が現れた。まだお祝いしていなかった前週の誕生日のために買っておいた、ベースの代わりにワインボトルを叩きつけようとしている”London calling”のジャケをパロったスパークリングで一緒に乾杯した。ちなみに誕生日のアニキは、竹内まりやに嫌な思い出しかないそうです。「毎日がスペシャル」じゃねえよー。毎日がお金じゃない利益をいただいているエブリデイ。分かりやすくなくていいって、つまりそういうことだ。


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by barcanes | 2016-09-23 18:04 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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