RVG、そしてエンジニアの仕業

8/28(日)

イベントのない土曜日はたいてい誰も来ないし、南口ではロケットデリでテツさんや二見さんのイベント「ロッキンブルース日常」で盛り上がってるし、しかも雨だし、今日ものんびりいくべと完全に油断してたら、看板を出す前からお客さんがずずずっといらっしゃった。雨にもかかわらず有難いことである。

その後は書き溜めておいたブログをアップ。ちょうど3本目を上げたところで、ライブ帰りのピアノ王子が来店。ルディ・ヴァン・ゲルダーが亡くなったと聞く。ブルーノートを始めとして、プレスティッヂ、インパルス、リバーサイドなどの主要なジャズレーベルの録音を、ある時期には毎週日替わりで、自宅スタジオにおいて一手に引き受けていたというから、ある時代のジャズの音はほとんどこのたった一人のエンジニアによって作られていたと言っても過言ではないのだろう。

ところがピアノ王子は、そのゲルダーのピアノの音が好きじゃないと言うではないか。確かにちょっと歪み気味で、こもって濁ったような感じがする。イコライジング的にも決して整った音とは言えないだろう。モンク好きの私としては、ピアノの音はそんな音でよく、むしろ黒人ピアニストのアタックの強いピアノは生音で歪んだような音だったのだろうと思うし、1つのマイクで倍音を含んだ音の塊を拾い(意外にもオン・マイクだったらしい)、大きい音で再生してもキンキンしないパワフルな音にしたかったのではないかと想像したりする。

60年代末からはA&MからCTIレーベルの、あのイージーリスニング的なフュージョン・サウンドにもゲルダーは絡んでおり、それまでのモダンジャズとは違う70年代のサウンドを目指したのだろうが、楽器は電化の傾向にあり、ステキな生ピアノの音というのはあまりイメージにない。もしかしたら、ゲルダーはピアノの録音があまり得意ではなかったのだろうか?(そんなことを言ったら怒られそうだ。)少なくとも、キレイに分離されたような音のイメージではなかったのだろう。そんな音は他に任せておけば良い。中音域が勝負のモノラル時代の、真ん中からガツンと押し出てくるような、ホーンにも負けない音。ジャズ喫茶のノイズ混じりのレコードから聞こえてくるような、あの音だ。

ゲルダーといえばやはりコルトレーン。ジミー・スミスのオルガン。そしてギターの音。豊かな中音域や歪み成分を活かすような録音が真骨頂なのだろう。そんなことを考えてると、ゲルダーという人はイメージ以上に保守的ではなく、自己流かつ門外不出の技術を磨きながらも時代時代のニュー・サウンドに興味を持っていた人だったのだろうなと思えてくる。70年代以降の電気楽器にも対応したし、90年代はデジタル・リマスタリングの仕事も多かった。探せば探すだけRudy Van Gelder(RVG)の文字の入ったレコードやCDが、店の棚からも出てくる出てくる。(残念ながらマトリックスにRVGなどの刻印の入ったようなものはありませんが。)

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ライブ中に動き回るコルトレーンを、ゲルダーがマイクを持って追いかけたことから曲名がついたという逸話も有名な”Chasin’ the Trane”を聞こうじゃないか。あまり音の良いレコードじゃないけど。いい音を録るためにマイクを(どのように持っていたか分からないが)持って追いかけていたゲルダーの姿を想像しよう。録音エンジニアのこだわりや魂というものは、端から見ればコミカルにも思われたかもしれない。気骨の人間とはそういうものだ。

他人からどう見られようと関係ないのだ。自分の築いた技術を語らず弟子もとらず、死んだら終わりの一人の人間が、形を成した仕事だけを残して去って行く。後進の指導なんて、知るかそんなの。勝手に自分で考えてやれよ。なぜなら自分がそうしてきたから。そうして後進に、自分で考える余地を残したのだ。教えない、ということがこの時代にどれだけ大事なことか。教えちゃうと、人間の脳ミソは働かなくなって小さくなっちゃうらしいですねどうやら。どうせ教えたって、同じことは誰にもできないのだ。あっぱれ、RVGの死。

先日買ったザ・バンドの「Cahoots」をかけたら、アニキが「The Bandは”Islands”と”The Last Waltz”と”Rock of Ages”の3つでオッケーでしょ!」と言うので、1、2曲抜けてる抜粋版CDの”Rock of Ages”を聞く。低音が寂しいのでツマミをちょっと盛り上げる。先ほどのピアノ王子が「このドラムの音、好きだなあ」と言うから内ジャケをよく見てみると、フィル・ラモーンの仕業だ。前作”Cahoots”(71年)でのベアズヴィル・スタジオのエンジニア、Mark Harmanの名前と共にPhil Ramoneの名が連ねられているではないか。71年末日のコンサートで、ホーン・セクションのアレンジはAllen Toussaint。(彼はニューヨークの現場に来ていたのだろうか。)

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分離の良い音のドラムの音。スネアには軽くリバーブが乗っていて、当時のマルチトラック技術を駆使した雰囲気が伝わってくる。サウンドの印象的には76年ぐらいの感じのするライブ・アルバムである。言ってみればフュージョンやAORといったニュアンスの、スタジオ・ミュージシャンがしっかりとバックを支えているようでいてしかしそれはライブ録音であるという、素晴らしい演奏を見事に捉えてミックスされた奇跡のようなアルバムなのである。そこにはバンドの演奏に加えて、やはりフィル・ラモーンの、エンジニアの仕事が大きく作用していると言わざるを得ないだろう。

ちなみにフィル・ラモーンの代表作と言えばポール・サイモンの”Still Crazy After All These Years”(75年)などの他、やはりVerveの「ゲッツ/ジルベルト」(64年)。ブラジル人で言えば、ゲルダーはCTI/A&Mのデオダートやジョビン。その両エンジニア双方に、クリード・テイラーというプロデューサーが絡んでいる、というのがまたしても興味深すぎる。

南口から流れていくね、なんて言ってた人たちはことごとく現れませんでしたが、そんなことが気にならないぐらい、面白すぎる録音エンジニアの巨匠のお話でした。ってつい興味をそそられちゃうのも仕業なんですよ。そんな仕事を遺した人たちの。


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by barcanes | 2016-09-01 04:34 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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