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ポップスの間接性/TAJIROCK

昨日の音響面における反省点をどう克服できるかが気がかりであった。リハの前の最初のセッティングの時点で、ゲインを少しだけ下げておくことにした。そして今回はバンド持ち込みのマイク(ゼンハイザーだっけ?)を使った。抜けの良い個性あるマイクで扱いやすかった。この2点だけでも良い結果が得られた。また出演3組のメインボーカルは三者とも声量のある人たちだったので、その点でもやりやすかったと思える。

ピアニストでキーボーディストで宅録エンジニアでもある田尻有太は私にとって特別に縁のあるヤツである。学校の後輩でもあるのだが、なんと言っても、彼が生まれる前に私は彼に会っているのだ。妊娠中だった小学校の担任の先生のお腹の中に彼はいたのである。いや、それは彼の兄だったっけ?細かい違いはまあいい。細かくないか。まあそんなこともあって、彼はこの店に愛着を抱いてくれ、不定期にも彼の名を冠したイベントを続けてくれている。もう何度目になるかも分からないが、毎回いろいろなテーマでゲストを呼び、藤沢の人たちにミュージシャンを紹介し、そしてミュージシャンたちにこの店を紹介してくれている。

今回は主に東京、下北沢あたりで活動している3組を集めてくれた。現在メンバーとして参加している「いろちがい」、アルバムやサポートで演奏している「橋本拓也」、以前に一緒にバンドをやっていた「和津実」、いづれも彼が絡んでいるメンバーたちだ。いつも藤沢から東京に出向いている田尻の地元に、今度は東京からみんなに来てもらおうという企画である。

「いろちがい」と「橋本拓也」はちょうど、ギター/ボーカルにベース、ドラムと田尻のキーボードの4人という同じ編成。ポップスのサウンドとしても同じ系統と言えるだろう。昨日の「MiyuMiyu」といい、先週の「クブクリン」といい、このところポップスのライブが続いたこともあって、「ポップス」について考えさせられることになった。

様々な音楽、雑多なジャンルを聞いてきた身からすると、乱暴な言い方をすればポップスとはクラシックであると思う。楽曲の形式的にも使われる楽器や奏法、組み合わせ方にしても、またサウンドの趨勢にしても定形化している。奇しくもこの日のギタリスト3人が使っているダイレクト・ボックス(アコースティック・ギターをミキサーにライン入力するための機器)もみんな一緒だった。こういう対バン形式のイベントではドラムセットもベース・アンプも共有、マイクもP.A.も一緒なのだから特筆すべきことではないかもしれないが、それでもやはりミュージシャン自らが標準化の方向に向かっているということは、同じフォーマットの中で勝負するという意味でクラシック的だと言わざるを得ないだろう。

クラシック的と言うことは、楽曲の良さと演奏技量で勝負するしかないと言うことである。飛び抜けたものでもなければ、どれも似たようなものに聞こえてしまう。我々が聞きたいのは個性的なものではないのか?数多ある中からそれが独自であることを識別したいのではないのか?それを同じフォーマットの中の細かい違いで表現しようとすることに大衆性、ポップスが表されるのだろう。

そこにポップスの間接性が生まれてくる。形式やファッションやスタイルを利用することによって、直接性を回避する。間接的であるということは心地よく気楽である。大量生産や何万人もを相手にすることも可能になるだろう。ポップスの間接性はどこか我々の社会の民主主義のあり方に似ている気がする。選んでいるようで選ばされてしまっているような非・直接民主制が潜んでいる。ポップスは形式に当てはまらないような雑多な声や音にもっと耳を傾けるべきではないか。

クラシック化したポップスに残されたのは声の個性だ。(あとはイケメンだとかオシャレだとか。)逆に言えば、個性ある声にしか具体性がないとも言える。もっと拾い上げるものがあるのではないか。クラシックの対義語がフォークロアであれば、フォークだって十分に形式的ではある。ポップスはフォークから何かを削ぎ落とすことでクラシックに向かう上昇性かもしれない。だとすれば、間接性に安住せずにやはりもっと拾い上げていかなければいけない。ハーモニー、コーラス・ワーク、なんじゃこりゃっていうオリジナリティ、独自のサウンド、破綻や脱線、ウィットやユーモア、いくらでもあるはずだ。これはミュージシャンだけでなく聴衆の責任でもある。そして社会の問題が政治家にあるだけではなく我々に責任があるだけでもないように、我々の心の中にある官僚的性質のようなものが、現代のポップスをもうひとつ面白いものにできていないのではないだろうか。

と、そんなことを書いてきたけれど、この日のイベントの内容は非常に満足のいくものだった。この制限ある環境の中で、みなさん持てる力量を存分に発揮してくれたし、私も今年一年の最後のP.A.をうまくやることができた。個人的にはガットギター皆倉君と田尻の演奏で歌った和津実(なつみ)ちゃん(元Mopsy Flopsy、ミチルカ)の伸びやかなボーカルに会心のリバーブを乗せることができたのが嬉しかった。なにを隠そう、この店の空間にバッチリ響くリバーブをキメることに使命を感じているのだ。

同じ時間、南口では日本のポップス黄金期を支えた名ドラマーである上原ユカリ裕さんの還暦パーティーが行われていたこともあって、藤沢のお客さんたちには集まってもらえなかったが、田尻としても自信を持って見てもらいたい内容だったろう。それでも東京方面から多くのお客さんに来ていただくことが出来た。
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出演順に、橋本君バンド。
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和津実ちゃんと皆倉君(右)。
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いろちがいのみなさん。
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そして今日はNORD、マイクスタンド、シャツと赤で決めてきた主宰。いつもありがとう。
by barcanes | 2013-12-14 20:31 | 日記 | Comments(0)