K氏のマラソン

朝早起きして海まで歩いて、湘南国際マラソンの応援に行ってきた。サブ3を目指しているK氏を見るためだ。地下道のある松波の交差点は、往路で16キロ、復路で21キロ地点にあたり、K氏はどちらも理想的なペースで通過していった。その後伝わってきたゴールタイムは2時間53分というすばらしいものだった。平均にすると1キロ4分8秒ほどのペースだ。翌日お店に来てくれて聞いたところによれば、スタート前にふくらはぎに異変が起き、びっこを引きながら走り始めた。ダメかと思ったが5キロを過ぎた頃、痛みが消えた。そこからは4分少々にペースを上げ、僕の前を通過したときにはやや速すぎるのではないか思えるほどだった。表情にも余裕があり、快調に飛ばしていた。「速すぎないようにね!」と言った僕の声が聞こえていたそうで、35キロまでは我慢した。最後まで疲れを感じなかったし、ペースもほとんど落ちなかった。後半は一人にしか抜かれなかったが、その一人は明らかに年代が上の50代だったそうだ。

K氏は昨年の初マラソンで3時間15分ほど。年は僕の二つ上だ。高校は陸上部でスピードはあるが、やはり後半まで持たず失速した。問題を克服するため、この6月には100キロマラソンを完走し、8月には月間600キロを走破した。月に一度ぐらいは練習成果を報告に来てくれて、僕は太鼓判を押していた。もともとのスピードにスタミナがついて、それに怪我もほとんどしたことがないという丈夫な地脚を持っている。ほとんど問題がないように見えたし、目標タイムをもっと上げても良さそうだったが、K氏はあくまで今回は確実に3時間を切ることを目標にするという。あとは調整と、当日ペースを上げすぎないようにセーブすることだけだったのだ。

さっそうと走ってきて一瞬のうちに走り去っていくK氏の姿を見届け、僕は久しぶりに爽快な気分だった。小柄でずんぐりした印象のK氏が、背筋を伸ばしにこやかに駆け抜けていくのがカッコよく見えた。僕は勝手に自分の希望もその背中に乗せていたからなんだろう。そしてそれ以上の姿を見せてくれたからだ、きっと。僕は一緒に練習したことはないけれど、彼がどれだけ、しかもひとりで努力したかが分かっていたし、その成果を認めてもらうのがどれだけ嬉しいことか知っている。認めるというのは文字通りの「視認する」という意味だ、結果の数値だけでも十分に評価に値するだろうが、その動く姿を誰かが認めなければ、彼のチャレンジは彼だけのものになってしまう。もちろん彼のチャレンジは彼のものだが、それだけではないのだ。そうだ、それだけではないというものがなければ、我々の人生はいったいなんだというのだろう!
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K氏の挑戦はこれからも続いて、まずは福岡国際のB標準をクリアし、来年のウルトラでは自己ベストを、そして山岳レースにもチャレンジしたいと。僕も2年前に山岳レースとサブ3に挑んでいて、何人かの常連たちがレースにつきあってくれたけれど、練習に関しては全くの孤立無援だった。だいたいが「マゾ」とか言われているうちに、煮詰まってしまって楽しみを見いだせなくなってしまったのだ。常軌を逸するというほどクレイジーにもなれなかったし、気楽な趣味といえるほど常識的な生活でもなかった。そのうち脚の痛みも限界に来て、イヤになってしまった。しかしサブ3という結果を残したことで周りからの評価が明らかに変わった。そこから新たな出会いもあったし、自分の感覚も少しずつ変わっていった。あの頃のチャレンジは僕だけのものでしかなくてちょっと辛かったのだけど、それは後からすれば必ず、僕だけのものではなくなるのだろう。

また同じような練習をしなきゃいけないかと思うと気が進まず、今年はとうとう申し込みもしなかったし、なにもなくても週に二日ぐらいは走らないと体調が悪くてしょうがなかったのが、最近は怠け慣れて2週に一度ぐらいしか走らなくなってしまった。山もすっかり遠のいてしまった。時々冷ややかな風が頬の横を通りすぎていったり、テレビで雄大な景色を見るとたまらなく切なくなることがある。

自分ではあまり気付かなかったのだが、熱しやすく醒めやすい性質のようだ。最近そう言われて、そうだなと思った。あれだけ固執して一生懸命やっていたことを、ある時が過ぎるといとも簡単に手放してしまう。10年続いたこの店が、僕のこれまでの人生の中で、ひとつのことをもっとも長く続けたものなのだ。まあそれは、一生懸命やってきたとは決して言えないぐらいのものだからだろう。

それでも翌日は、走りたくなってジョグに出かけた。たいしたペースでもないのに呼吸が苦しく、体力の衰えさえ感じた。夜にK氏が来て、祝杯を挙げたくさん飲んだ。彼の今後のプランを聞かされ、さんざん夜も更けて、あんまりアッパレだったもんだから僕はとうとう握手をしてしまった。最初にマラソンに申し込んだときと同じ、酔った勢いだ。いつだって何かを始めるきっかけは、酔った勢いってヤツさ。悪くないよ、そんなときには酒もね。もちろん酔った勢いってヤツの精度は高くはない、口だけ、笑い話で終わってしまうことも少なくないけど。まあとにかく、来年は一緒にマラソンを走ろうということに、なってしまった。

時々でも「走りたいな」と思って走りに出るのだし、気乗りするかしないかを別とすれば、やはり走りたいなと思うことは多い。走るのが好きなんだ。だから次は、楽しんで走りたい。タイムはともかく、楽しんで一生懸命走れるようなコツをつかみたいな。とにかく毎日、ヒマさえあれば走って、そんなことしてれば自然と速く走れるようになるんだろうけどね。
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by barcanes | 2011-11-03 23:11 | 日記 | Trackback | Comments(0)
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