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社交場業

最近はイベントをよくやるようになったせいか、何もない週末の日は静かだったりする。今日もぽつりぽつりとお客さんが見える程度であった。もの哀しげなヴィブラフォンもののジャズのレコードが、寒さを感じ始めた静かな秋の夜に合っているような気がした。東京のとある街の再開発の仕事をしている常連のアニキと日本酒のぬる燗を飲みながら、街の活性化だとかお店の魅力とは何かとか、そんな話をしていた。

夏に九州に行った際に福岡の大学で教師をしている友人を訪ねたら、「ちょっと話聞いてってよ」と午後のゼミに参加させられた。大学の授業の一環で町おこしをやっている学生たちと、東京で地域通貨を通して街を活性化するということを長年にわたって続けている大学サークルの学生の話を聞いた。常連のアニキのところには地元の大学の商学部のゼミの学生が出入りしていて、ミニコミ誌を出したりして街を盛り上げることに一役買っているという。我々個人店も自分たちのことで精一杯なのだから、自由に動いてくれる学生たちに手伝ってもらえるといいなと思う。そういうことをやってくれるサークルとかゼミとか、誰かいませんかね?面白いと思うんだけどなあ。変な大人たちにたくさん会えるしね。

そのアニキは長いこと藤沢を離れていて、地元に帰ってきたときに、昔通っていたお店から始めて色々なお店に行ってみたそうだ。そして「社交場」というようなお店がなかなかないことに気づいた。食事をするところは食事をするところだし、喫茶店ではコーヒーを飲みながら世間話ぐらいしかできない。チェーン店などで出会いもヘったくれもない。やはり小さな個人店の飲み屋で、店主や常連を介しながら人と人が出会ってゆく。杯を重ねれば長居も深い話もできる。藤沢にはそういう個人店の飲み屋がたくさんあって、それぞれの店主の人柄やそれぞれに集うお客さんたちのムードがあり、それぞれの個性でやっている。お客たちはその中で気に入った場所を選ぶ。そこには近所付き合いとかサークルとか仕事とかと関係のない、様々な人たちがいる。そういう場所は貴重なんだよ。社会にとっても貴重な財産なんだよ。そうアニキは言ってくれた。

僕のお店のことを「部室」と呼んだヤツもいたが、自分はこの店の管理人のようなものだと思うこともある。ここはパブ(パブリック・スペース)で、みなさんのものなのだと。一方で、ここは私の城で、私がルールなのだというときもある。お酒をウリにしているようで、実は空間と時間を提供する仕事なのだろう。私の仕事はラムが専門のバーテンダーなどではない。私の仕事は他にどこにもない場所を作り出し、いい酒を飲ませ、そして大げさに言えば、お金じゃ買えない何かを得てもらうこと。その大部分は人と人の関わりの中で生まれる。私は飲食店という名を借りた「社交場業」なのだ。そういう観点ですべてを見直してみたい。そうしたら何かが変わってくるかもしれない。

そういうことこそが本当のお店の個性であり、そういう店がたくさんあることがこの藤沢という街の個性、いいところなのではないだろうか。
by barcanes | 2010-10-23 19:47 | 日記 | Comments(0)